6つの小さな離れの家

 

 

戦前から引き継がれてきたある一軒の家があった。

ここ長野県茅野市では、周囲の山々から湧き出る小川が住宅街に毛細血管のように張り巡り、夏涼やかな一方、冬足が凍るような寒さが地面に染み渡る。この厳しい地域特有の気候条件は、この場所に住む人々に様々な「生きる知恵」をもたらしてきたはずだ。敷地内には、母屋のほか、防空壕、井戸、むろなどの「地下世界」が長年使われずに眠っていた。その世界に潜り込むと、人為的な空間にも関わらず、何か洞窟や洞穴のような体感があり、現代ではありえない「人工的な野生環境」みたいな場所に自分が身を置いていることに気が付く。
年中一定温度を保つ地中熱が、その独特の温熱環境を内部にもたらしているのだ。かつてここの住人は、この「地下世界」と「地上世界」を上下に行き来し、その深さや広さによって微妙に異なる温熱環境を使い分けながら、極寒のこの地域で生き抜いてきたのだろう。

まさにここは、人間と環境の格闘の痕跡のような場所なのだ。

「建てる」だけでなく「掘る」ことで築かれたこのランドスケープを「新しい敷地」としてとらえ、野生あふれる先代の生活の上に、未来の生活を重層させた「歴史の地層」のような家ができないだろうか。

まずはその「新しい敷地」を開拓することから始めた。

土地いっぱいの母屋をバラバラに分棟化させる「減築」を行い、明るく伸びやかな空地を取り戻すことにした。また、地下空間の「既築」だけでなく、地上の構造体も場当たり的に「改築」することで、利用尽くせるものはすべて残すことにした。
その結果、地下と地上に立体的な「遺跡のランドスケープ」のようなものが生まれ、それらを新たな建設の下敷きとなる「敷地」と見立てた訳だ。

そしてその上に、地中熱の活用を意識しながらこれからの生活用途を重ねるようにしていくつかの「増築」を計画した。この「既築×減築×改築×増築」という工種の掛け合わせによって、部材単位で新旧が混在化し、いろいろな時代が重層する「6つの小さな離れ」が出現した。

それらの小さな離れは、地に根を生やすようにそれぞれ独特の地下世界と融合しながら、庭にバラバラと配置されている。それぞれとても小さい。建築というより家具に近い存在感だ。

構造も50×50の鉄骨による「人力で運べるユニット」で構成し、家具のように現場で組み立てた。

庭の中でのこの圧迫感のなさは、小ささだけでなく、この透明感によるものでもある。

この透明なガラスパビリオンのような増築は、ある種、地下世界を存続させるための必要不可欠な環境装置みたいなもので、あるところでは、縦長のプロポーションによって井戸奥深くの白カビを除去し健康的な水環境をつくっていたり、またあるところでは、浅型のプロポーションによって地熱がガラスの熱還流で極力逃げないようにし、植物温室に必要な採光と熱エネルギーを室内に満たせるようにしている。

そのようにして、「現代では造りえない過去の技術」と「過去では造りえない現代技術」がハイブリッドに重なり合うすることで、「新しい野生的建築」がランドスケープの上に生えるようにして生まれた。

かつて、人の命を救ったかもしれない空間、生きるために築かれたそんな空間、それがあったからこそ、今の新しい生活がある。暮らしながらそう思えるような、古くて新しい「未来の家」を目指した。
(武田清明)